Custom Yacht Project
ー カスタムヨットプロジェクトー




トップコートの塗料についてのお話

モールドが完成しましたので、これから積層に入るわけですが、次の報告をする前に
ハルやデッキの表面となるトップコートの塗料についてお話したいと思います。

ゲルコート
一般的にプロダクション艇で使われるのがゲルコートと呼ばれる樹脂です。このゲルコ
ートを雌型モールドに塗布しますが、この時ゲルコートが白とか、紺とかであれば、型抜
きした時に、そのゲルコートの色が表面に現れます。マリーナで見かけるヨット、ボート
の殆どが、このゲル―コートが表面に見えます。

このゲルコートは広く使われてきましたが、問題は紫外線に弱いという事です。もちろ
ん、それで壊れるとかの話では無く、色が紫外線で褪せてくる。単なる見た目の問題で
はありますが、せっかく美しかったのが、見栄えが悪くなるのはいけません。これは特
に紺とか赤とか、濃い色に顕著に現れ、白でも同じなのですが、白の場合は見た目に
あまり解らないんです。ところが、最近は紺とかグリーンとかの船体も少なくありません
から、これを何とかしたい。


オールグリップという塗料
この紫外線対策としてオールグリップ社が出したオールグリップという塗料が開発され
ました。これは紫外線に強く、硬い塗料です。何年経っても色褪せないで美しさを保つ
塗料として有名になり、日本でも話題になりました。



しかし、これはゲルコートの様に、雌型モールドに塗布してというわけにはいきません。
プロダクション艇はゲルコートで建造しますが、オプションでオールグリップという設定を
する様になります。これはゲルコートで建造後、それをサンディングしてオールグリップで
再塗装しなければなりません。でも、その価値は充分にあります。何年経っても色褪せな
いで、綺麗なままを維持します。

但し、問題が無いわけではありませんでした。確かに紫外線に強いし、硬い塗料なので
擦り傷にも強い。でも、いろいろあります。まず、塗装が難しい。でも、これはプロが塗装
すれば問題は無いわけですが、もうひとつ硬化時間が長いという事で、塗装後、硬化す
る迄の間に、粉塵等が付着する可能性があるという事です。ですから、塗装には、それ
なりの場所と設備が必要になります。と言う事は、造船所では可能でも、どこでもできる
ものではありません。ただ、硬化時間が長いという事で、表面張力によってゆっくり表面
がフラットになる、磨いて表面を整えるのでは無いので、汚れにくいという事でした。

ところが、長い年月において、トップコートに擦り傷が一切つかないなんてあり得ません。
そうなるとバフ掛けする事になります。この時、硬い塗料なので、より深く磨く必要性があ
ります。さらに、ぶつけて破損した場合、補修後、部分塗装をしなければなりませんが、そ
こにちょっとした問題があります。

この塗料は調色できないとされており、メーカーから出された色をそのまま使う事になり
ます。しかし、いくら紫外線に強い塗料とは言え、永遠に、全く変化しないなんてありえま
せん。並べてみますと、微妙に違うのが解ります。でも、調色はできないという事で、補修
は、通常ウレタン塗料を使います。まあ、いろいろありまけど、ゲルコートより遥かに良
いのはあきらかです。


オールクラフトという塗料
さて、このオールグリップ社が新しく出した塗料です。これはオールグリップと同じ様に
紫外線に強い、でも、オールグリップ程には硬く無い。では、何故、この塗料を新しく開
発したのだろうか?



ヨットは造船所で建造されますが、オーナーの手に渡ってから、数十年はオーナー側
でメインテナンスされる事になります。つまり、どんなに良い塗料であっても、長い年月
の間には、バフ掛けして磨いたり、ぶつけて補修したりというのが出てくるのが普通で
す。それを考慮して出てきた塗料です。

このオールクラフトも紫外線に強いので、長期間に渡って美しさを保つ事ができます。
それで、建造後のバフ掛けにおいては、塗料の溶解温度がオールグリップより低く、バ
フ掛けするとその傷に溶け込むので、深くバフ掛けする必要が無い。つまり、塗膜を薄
くしない。と言ってもミクロン単位の話です。

また、調色ができる。補修を行った場合に部分塗装をする際、いくら紫外線に強いと言
っても、全く変化が無いわけではありませんから、部分塗装する場合、必ず調色が必要
になります。それがオールクラフトではできる様になっています。しかも、硬化時間も短く
なり、造船所のそういう設備が無いマリーナとかでも塗装が可能という事になります。

恐らく、これからは、オールグリップに替わって、このオールクラフトという塗料がトップ
コートの主流になっていくのではないかと思います。もちろん、プロダクション艇ではゲ
ルコートが主であり続ける事には変わり無いでしょうが、その場合は白をお薦めします。
紺色をご希望なら、オールクラフトが良いと思います。或は、一般的なウレタン塗料でも
紫外線に強いですので、たま〜に、日本に持ってきてから、ご希望の色を塗装する事も
あります。当然ながら、今回のカスタムヨットには、このオールクラフトを使います。

2020年6月17日

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